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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)353号 判決

原告(反訴被告)

鯉田好雄

被告

八尋大哉

被告(反訴原告)

伏見運送株式会社

主文

一  被告八尋大哉及び被告(反訴原告)伏見運送株式会社は、原告(反訴被告)鯉田好雄に対し、金一七四八万一五四九円及びこれに対する平成三年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)鯉田好雄は、被告(反訴原告)伏見運送株式会社に対し、金九八万四八八二円及びこれに対する平成三年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)鯉田好雄の被告八尋大哉及び被告(反訴原告)伏見運送株式会社に対するその余の各請求及び被告(反訴原告)伏見運送株式会社の原告(反訴被告)鯉田好雄に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告(反訴被告)鯉田好雄と被告八尋大哉との間に生じた分はこれを八分し、その一を原告(反訴被告)鯉田好雄の負担とし、その余を被告八尋大哉の負担とし、原告(反訴被告)鯉田好雄と被告(反訴原告)伏見運送株式会社との間に生じた分はこれを五分し、その一を原告(反訴被告)鯉田好雄の負担とし、その余を被告(反訴原告)伏見運送株式会社の負担とする。

五  この判決の第一、二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告八尋大哉(以下「被告八尋」という。)及び被告(反訴原告)伏見運送株式会社(以下「被告会社」という。)は、各自、原告(反訴被告)鯉田好雄(以下「原告」という。)に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は、被告会社に対し、二四〇万八六二八円及びこれに対する平成三年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、本訴として、後記の交通事故により、傷害を負つて入通院し、後遺障害が残り、所有の車両が破損したとして、原告が、被告八尋に対して民法七〇九条により、被告会社に対して民法七一五条及び自賠法三条により、それぞれ損害賠償を求め、反訴として、同事故により、所有の車両が一部破損して物的損害を受けたとして、被告会社が、原告に対し、民法七〇九条により、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成三年二月一七日午前五時五五分頃

(二) 場所 兵庫県姫路市御国野町深志野所属上り四・四キロポスト国道三一一号線バイパス上(以下「本件道路」という。)

(三) 原告車 原告運転の普通貨物自動車

(四) 被告車 被告八尋運転、被告会社所有の大型貨物自動車

(五) 態様 原告車が駐車車両を避けようとして路面が凍結していたためスリツプして対向車線に進入し、走行車線に戻つたところ、被告車が右進入を見て原告走行車線上に進入したため、原告車と被告車が正面衝突したものである。

2  被告会社の責任

被告会社は、被告車の保有者であり、本件事故当時、従業員である被告八尋を被告会社の仕事に従事させていたから、自賠法三条及び民法七一五条により、本件事故により原告が受けた損害を賠償する責任がある。

3  原告らの傷害及び後遺障害

(一) 原告は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫、右第一ないし三、左第一ないし五肋骨骨折、顔面裂創、右頬部異物、右大腿骨粉砕骨折、胸部、右膝挫創、左鎖骨骨折、気脳症、左右血胸、肺挫傷の傷害を受け、次のとおり入通院した(甲一ないし三、五、六の一ないし四、九、弁論の全趣旨)。

(1) 平成三年二月一七日から同月二〇日まで四日間阿保病院入院

(2) 平成三年二月二〇日から同年一二月一四日まで二九八日間神戸大学医学部附属病院入院

(3) 平成三年一二月一五日から平成四年九月二九日まで同病院通院(実治療日数一九日)

(二) 原告は、平成四年九月二九日、症状固定し、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すとして自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一〇級一一号(以下、単に「何級何号」とのみ略称する。)に該当する旨、鎖骨、胸骨、肋骨等に著しい奇形を残すとして一二級五号に該当する旨認定され、右各後遺障害が併合されたうえ、九級と認定された(前掲各証拠)。

二  争点

1  被告八尋の過失

原告は、被告八尋は危険を察知した場合には適切な回避手段を講ずるべきなのに、これを怠る等の安全確認義務違反の過失がある旨主張する。

2  原告の過失

被告らは、原告は、本件事故当時、路面が凍結していたから、減速し、ハンドル操作を的確にしてスリツプしないように運転する注意義務があるところ、速度を出し過ぎ、ハンドル操作を誤つて原告車をスリツプさせ、対向車線に進入させた過失がある旨主張する。

3  免責の抗弁の成否

被告会社は、本件事故は、専ら原告の速度の出し過ぎ、ハンドル操作の不適切によつて発生したもので、被告八尋を十分監督し、同被告には過失はなく、かつ被告車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたから、民法七一五条一項但書、自賠法三条但書により使用者責任及び運行供用者責任を負担しない旨主張する。

4  過失相殺

5  原告及び被告会社の損害額

第三争点に対する判断

一  争点1、2及び4について

1  甲四、乙五、原告及び被告八尋の各供述、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、被告八尋の供述中、右認定に反する部分は、甲四の記載に照らして採用できない。

(一) 本件道路は、片側各一車線でその幅員は各三・五メートルで、その間に幅員〇・六メートルの中央線があり、最高速度は時速六〇キロメートルであつた。

(二) 被告八尋は、本件事故直前、周囲がまだ薄暗い状態であつたため、ライトを点灯し、時速約七〇キロメートルの速度で本件道路を北進し、九一・七メートル前方に原告車がスリツプして自車の走行車線に進入して来るのを発見し、軽くブレーキをかけただけでそのまま進行し、さらに二八・九メートル進行した地点で四七メートル前方(その間、原告車は一五・八メートル進行)に転回して原告車の走行車線に戻ろうとしていた同車を見、危険を感じてハンドルを右に切り、ブレーキをかけたところ、対向車線に進入して行き、中央線より二・七メートル進入した地点で被告車の左前部と原告車の右前部が衝突した。

(三) 原告は、本件事故直前、一般道からバイパスに入り時速三〇ないし三五キロメートルの速度で本件道路を南進していたところ、進路前方左側に事故処理車が駐車しているのを発見し、それを避けて進行しようとしてハンドルを少し右に切つたところ、当時かなり冷え込み、同所が橋の高架部分で、その部分辺りだけが凍結していたため、スリツプして斜めに進行して対向車線に進入し、やつと転回して自車の走行車線に戻つたところ、同車線に進入して来た被告車と衝突した。

(四) なお、被告車のスリツプ痕は、左後輪が一八・三メートル、右後輪が二三・五メートルであつた。原告車のスリツプ痕は見当たらなかつた。

2  右認定によれば、被告八尋は、本件事故直前、制限速度を一〇キロメートル超過した速度で進行し、原告車が自車進行車線に進入して来たのに気付きながら、軽くブレーキをかけただけでそのまま二八・九メートル進行し、四七メートル先に自車車線に戻ろうとしている原告車を見て危険を感じ、右にハンドルを切り、急ブレーキをかけたものであるから、同被告には、速度違反及び減速ないしは適切なハンドル操作をすべき義務に違反した過失があるといわざるをえない。

また、原告は、本件事故当時、早朝で、かなり冷え込み、スリツプしやすい高架部分で、かつ事故処理車の側を進路変更して通過しようとしたのであるから、特にスリツプしないように減速し、ハンドル操作を適切にすべきであるのにこれを怠つたため、自車をスリツプさせて対向車線に進入させたものであるから、原告にも相当の過失のあることが明らかである。

3  そこで、原告と被告八尋の過失を対比すると、原告は、減速ないしはハンドル操作が不適切であつたため、自車を対向車線に進入させたもので、本件事故発生の原因を作つたものであり、その過失は相当大きいが、たまたまその場所が高架部分で凍結していたうえ、事故処理車がいて進路変更する必要があつたという不運な事実があつたのに対し、被告八尋は、原告車が自車進行車線に進入して来たのを知りながら、僅かに減速したのみでそのまましばらく進行し、原告車が転回して原告車の走行車線に戻ろうとするのを見て急にハンドルを右に切り、急ブレーキをかけたもので、最初に原告車が自車進行車線に進入して来たのを見た時点でブレーキをかけて原告車の様子を十分に確認していれば、本件事故の発生を防止できたかその被害を軽減できたと考えられることにその他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、原告の過失が四五パーセント、被告八尋の過失が五五パーセントとみるのが相当である。

二  争点3について

被告八尋に過失のあることは前記のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく、被告会社の各免責の抗弁は理由がない。

三  争点5について

1  原告

(一) 治療費(請求額・六二五万二八〇〇円) 三万一九三〇円

前掲各証拠によれば、原告は、本件事故により、相当長期間、入通院して治療を受け、治療費として三万一九三〇円を自己負担分として支払つたこと(甲五の四七頁)は認められるが、それ以上に自己負担分として支払つたことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 入院雑費(請求及び認容額・三八万七四〇〇円)

原告が本件事故により原告主張の二九八日間以上入院したことは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、入院雑費合計額は、原告主張のとおり三八万七四〇〇円となる。

(三) 通院交通費(請求及び認容額・四万九〇二〇円)

証拠(甲九、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故による治療のため、自宅から神戸大学医学部附属病院に一九回通院し、その際、バスとJRを利用し、一回当たり往復の交通費として二五八〇円を要したことが認められる。

右認定によれば、原告の通院交通費は四万九〇二〇円となる。

(四) 休業損害(請求及び認容額・七四八万六四六〇円)

証拠(甲八の一、二、一〇、一一、原告本人、弁論の全趣旨)を総合すると、原告は、昭和二二年一一月二九日生まれで、歯科医院を経営しており、平成二年分の所得税の確定申告書による所得金額が七〇四万二七五三円であり、平成四年分の同金額が三四四万七六二一円であり、平成五年分の同金額が五六二万八八四八円であること、原告は、本件事故により、休業し、平成四年六月一日から現実に仕事を再開したことが認められる。

右認定によれば、原告主張のとおり、原告は、本件事故当時、一日当たり一万九二九五円の収入を得ており、少なくとも三八八日間は休業したというべきで、原告の休業損害は、七四八万六四六〇円となる。

(五) 逸失利益(請求額・五九三三万六六〇三円) 二一一九万一六四三円

原告の本件事故による自賠責保険上の後遺障害が併合九級であることは前記のとおりであり、本件全証拠によつても、原告が原告主張の併合七級に該当することを認めるに足りる的確な証拠はない。

原告の後遺障害の内容、程度、年齢、職業及び原告の本件事故前後の収入等を考慮すると、原告は、本件事故により、平成四年六月頃から六七歳までの二三年間、二〇パーセントの労働能力を喪失したとみるのが相当である。

そこで、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を求めると、次のとおり二一一九万一六四三円(円未満切捨、以下同)となる。

7,042,753×15.045×0.2=21,191,643

(六) 慰謝料(請求額・一一五六万円) 七五〇万円

原告の傷害及び後遺障害の内容・程度、入・通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は七五〇万円をもつて相当とする。

(七) 車両損害(請求及び認容額・一八〇万円)

証拠(甲四、一二、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、本件事故により原告車は大破してしまつたこと、原告は、本件事故の一年前に同業の歯科医師から買い、内装とタイヤを変えて、特別仕様車としたこと、本件事故当時の時価は一八〇万円程度であつたことが認められる。

右認定によれば、原告の車両損害は是認できる。

(八) 原告の前記損害額合計 三八四四万六四五三円

(九) 過失相殺

前記のとおり、本件事故につき、原告の過失は四五パーセントであるので、右原告の損害額からその四五パーセントを減ずると、その後の損害金額は二一一四万五五四九円となる。

(一〇) 損害の填補

原告が、本件事故による損害の填補として自賠責保険金四九六万四〇〇〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを右損害金から控除すると、その後の金額は一六一八万一五四九円となる。

(一一) 弁護士費用(請求額・六〇〇万円) 一三〇万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一三〇万円が相当である。

2  被告会社

(一) 車両修理費(請求及び認容額・一三〇万五八三四円)

証拠(乙一、二、証人鈴木三郎、弁論の全趣旨)によれば、本件事故による被告車の修理費及びレツカー費用代として合計一三〇万五八三四円を要したことが認められる。

右認定によれば、右支出は相当な損害と認めることができる。

(二) 休車補償費(請求及び認容額・六三万五五九四円)

証拠(乙三、証人鈴木三郎、弁論の全趣旨)によれば、本件事故による被告車の修理のため、被告会社は、同車を四〇日間使用することができなかつたこと、本件事故当時、保有車全部が稼働しており、被告会社は、二四日間は代車を借りることができたが、一六日間は代車を借りることができず、被告車を利用した営業ができなかつたこと、被告車の平成二年一一月から平成三年一月までの売上と経費をもとに休車した一六日間の損害を計算すると六三万五五九四円となることが認められる。

右によれば、被告会社が被告車の売上の基礎とした三か月には年末年始という売上額の多いと思われる時期が含まれているが、本件事故直前の三か月間の売上の平均であるから相当というべきで、右六三万五五九四円を相当な損害として是認できる。

(三) 代車料(請求及び認容額・二四万七二〇〇円)

前記のとおり、本件事故により、被告会社は、被告車の修理のため、二四日間代車を借りたが、証拠(乙四、証人鈴木三郎、弁論の全趣旨)によれば、被告会社は、関連会社から通常よりも安価に代車を借り、消費税を含め二四万七二〇〇円を支払つたことが認められる。

右によれば、右代車料は相当な損害として是認できる。

(四) 過失相殺

前記のとおり、本件事故につき、被告八尋の過失は五五パーセントであるので、被告会社側の過失として被告会社の前記損害合計二一八万八六二八円からその五五パーセントを減ずると、その後の損害金額は九八万四八八二円となる。

(五) 弁護士費用(請求額・二二万円) 〇円

本件は、人的損害に基づく損害賠償請求ではなく、物的損害に基づく損害賠償請求であるところ、特段の事情も認められないから、弁護士費用を相当な損害として認めることはできない。

四  まとめ

以上によると、原告の請求は、被告両名に対し各自損害賠償金一七四八万一五四九円及びこれに対する本件事故の日である平成三年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、被告会社の請求は、原告に対し損害賠償金九八万四八八二円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払の各限度で理由があるからこれらを認容し、原告及び被告会社その余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

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